確かなメソードを身につけ、音楽性、肉体の成長を無理せず、スコアを洞察し、その自然な成長で「聴かせる音楽」をクリエイトしたピアニスト。 ― ベートーヴェンのピアノ協奏曲などの録音を担当したプロデュサーによれば、カッチェンは、スタジオ録音であっても、各楽章は1つの曲としてまとまったものであるべきだという考え方だった。そのため、スタジオ録音でもほとんど編集をしていなかった。カデンツァを聴くとカッチェンがいかに高度なテクニックを持っているかわかる。タッチの種類が豊富で素晴らしい。強靭な音から優しい音、輝かしい音から軽やかな音まで見事に描き分けている。カッチェンの演奏は高度な技巧と確かな様式感を軸とした充実したもので、録音を担当したDECCAのプロデューサーはカッチェンについて、「いつも大きな笑顔を浮かべ、エネルギッシュで社交的だった。陽気で誰からも愛される性格で、自己中心的(egocentric)なところがあるが、それがとても魅力的だった」と言っている。驚異的な技巧と深い教養に裏打ちされた音楽的な表現が印象深いカッチェンの演奏は、抒情的な感情に溺れることなく理知的で、現代人の感覚にもストレートに訴えかけてきます。レパートリーは古典から現代曲まで、またスラヴものからドイツ、フランス、アメリカものまで幅広く、ヨーロッパでは高く評価され、特にブラームスとベートーヴェンのスペシャリストとしてよく知られています。逸材との共同作業にも先進的だった、デッカには40数枚のLP録音を残しました。そうした洗練されたカッチェンの美しきピアニズムは本盤でも遺憾なく発揮され、淡々とした美しさを奥深い透明感で貫いて描ききる素晴らしい名演。数々の英デッカのオーディオファイルレコードで、カッチェンは弾力的なリズム感と固い構成感で全体を見失わせない実に上手い設計で聴かせてくれる。冒頭から終わりまで息もつけぬ緊張感を味わえます。カッチェンの演奏は理知的なアプローチだと言われたりするが、当時、カッチェンは〝あまりに急ぎすぎる〟、〝衝動的に突進する〟とずっと批判されていた。これに対して、編集者のジェレミー・ヘイズは「それほどに音楽的な衝動に突き動かされてピアニストが弾いているのを聴くことができるというのは、驚くべきことだ」と言っている。
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