レハール畢生の悲劇のオペレッタ? ― クレメンス・クラウス時代のような瑞々しさは後年のウィーン・フィルにはないように思っています。ヴィリー・ボスコフスキーがコンサート・マスターとなって引き継ぎ、聴かせてきた音楽とは反対にロリン・マゼールの徹底してバトンをしっかり振り続けて「キッチュなウィーン音楽」を現出して見せた演奏をウィーン音楽録音全体に横溢しているのではないでしょうか。レハールの自作自演盤でソロを担当していた ― ウィーンの国立歌劇場で、第2ヴァイオリンを担当していたある日、作曲家レハール本人から、「国立歌劇場で私の指揮で私の作品を上演することになったので、そのソロを弾いてくれないか」と頼まれて「ジュディッタ」のヴァイオリン・ソロを引き受けたところ、眩い出来で、それ以来当時の大コンサートマスター、ロゼーから目の敵にされるようになって困ってしまったそうである。ボスコフスキーが今度は指揮者として小気味の良いテンポとメリハリのある演奏で楽しませてくれます。やはり作曲家の指揮の下で演奏したというのは大きいのでしょうか。この「微笑みの国」は1929年、「メリー・ウィドウ」の成功から実に24年の時を経てベルリンのメトロポール劇場で初演されたレハール畢生の作品です。日本では「メリー・ウィドウ」以外は知られていないようですが、「微笑みの国」も代表作オペレッタで、「メリー・ウィドウ」の次に人気が高い。オペレッタといえば不倫や恋の戯れを描いた軽妙な喜劇が多く作られていた時代に、ここには洋の東西、西洋と東洋の軋轢の問題が描かれています。アジアとヨーロッパの根本的な相違を主題に採りあげたのはレハールの作曲家としての慧眼ですね。しかしこのオペレッタの最大の魅力はやはり透明なまでの純度を保ったレハールの音楽。オーヴァチュアの第一音から、この作品の美しいメロディーは聴く者のこころを捕えて離しません。チャーミングな歌いまわしを魅力としているオペレッタの中にあって、レハールはこの作品以前に「パガニーニ」(1925年)、「ロシアの皇太子」(1927年)で悲劇を扱っています。そして、この作品はオペレッタには珍しい悲劇となっています。タイトルロールのジークフリート・イェルザレムはバイロイト音楽祭のワーグナー上演でおなじみになる。本盤の録音は1982年で、既にバイロイトでも歌ってたとはいえ、後にジークフリートやトリスタンに挑戦する頃程は重い声ではない。彼はプロオーケストラのファゴット奏者出身という変り種で、キャリア初期はオペレッタも歌ってステージ成れから次第に声を磨き上げていた。ヘレン・ドナートもバイエルン放送交響楽団でのリヒャルト・シュトラウスのオペラの常連。今でもこのオペレッタはドイツ語圏では人気がある。オペラ好きの方には、実に楽しい聞きものになるでしょう。
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