ブラームスの意匠を継いで ― 20世紀最高の名手のひとり、マウリツィオ・ポリーニがバリバリの超絶技巧でショパン、シューベルトから新ウィーン楽派作品に至るまで圧倒的な演奏を聴かせていた頃のレコーディング。ポリーニの磨き抜かれた強靭なピアノが細部では精緻の限りを尽くしながら、一方では気宇広大ともいえるスケールの大きな演奏を実現させた、ブラームスのピアノ協奏曲第1番。生ける伝説、ピアノ界のミスター・パーフェクトによるブラームスの第1番は、なんと、ドイツ・グラモフォンへ3度録音しています。本盤はその、最初の録音。交響的色彩の色濃いこの作品でのベームとウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の重厚なサポートも特筆すべきもの。ブラームスのピアノ協奏曲第1番の定番といって良い、全てが輝かしく確信に満ち、美しくもエネルギッシュなブラームスを楽しめます。ポリーニの国イタリアではピアノ音楽にオペラのヴェルディは愚か、ロッシーニやプッチーニにさえ匹敵するものがない。そのためポリーニは自国のものでないベートーヴェンやショパンを弾くのが、彼の演奏にはあまりにも強いイタリア的性格が示されていた。すなわち明晰な感覚美による合理的な造形である。そこに現されるクリアな美しさは、まさに地中海の伝統とも言える古典主義を思わせたが、ポリーニにおいては、それが過去を懐かしむのでなく、常に現在と密着している。イタリア人の国民性の特色は現実に足を踏まえたリアリズムにあるが、ポリーニの音楽にはそのことが強くにじみ出ている。当時、ポリーニを最もお気に入りとしていた、巨匠カール・ベームとの共演です。モーツァルトの2曲の協奏曲に始まり、ベートーヴェン、そしてこのブラームスの第1番の録音をベームと残したポリーニは、たびたびコンサートでも共演しました。あるインタビューでは「ベームの音楽的な雰囲気は類まれで、あのような体験は二度とない」とまで語り、ベームの奏でる音楽を敬愛していました。最初の第1協奏曲の録音は、そのベームとの最後の録音で、厳格な演奏に支えられてポリーニのソロが生き生きと歌を奏でています。完璧なテクニック、研ぎ澄まされた美音、作品に対する妥協のない真摯さといった彼の美質がすべて発揮された演奏です。一言でいうと全くブレの無い硬派な演奏。ルバートが必要最小限なため、ルービンシュタイン等の演奏と比較すると華麗さという点では物足りなさも感じもしますが、その無味乾燥な弾きっぷりにポリーニ特有のエスプリを香らせています。強打鍵時の和音のアンサンブルやテンポの正確さという意味、〝ブラームスの意匠〟を正確に再現、これも録音秀逸な御蔭か。
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