天才の対話 ― 2つの楽器が対等に拮抗しながら展開される、ベートーヴェンの革新的なヴァイオリン・ソナタ。それぞれ個性的な10曲のソナタの、そのなかでも劇的緊張感や圧倒的な迫力によって充実した世界を形作る『クロイツェル』にベートーヴェン自身のつけた題は『ほとんど協奏曲のように、相競って演奏されるヴァイオリン助奏つきのピアノソナタ』。特に規模が大きく、王者の風格をそなえており、ヴァイオリンとピアノが対等であることが特徴的である。ヴァイオリンの巨匠イツァーク・パールマンとピアニスト、ヴラディーミル・アシュケナージの若き日のベートーヴェンは、健康的な生気に溢れながらも作品の本質を見事に表出。そのスケールの大きな表現と精妙なアンサンブルは、颯爽としてニュアンスも豊か。稀代のヴィルトゥオーソ2人だからこそ成し得た、深い知性と限りない美意識に裏打ちされたロマンティックな演奏。20世紀後半の演奏規範たる理想の共演となった、パールマン&アシュケナージ夢の顔合わせだった。ヴァイオリン界最後の巨匠といわれるパールマンは1971年からEMIへ録音を開始し、主要ヴァイオリン協奏曲やソナタ、室内楽、小品集を録音したというだけでなく、ジャズやジューイッシュ音楽なども手がけてきました。彼は絹のような、美しくも切なく、人の心に寄り添うような美音で、暖かい言葉で語りかけてきます。その技巧の全てを駆使した音楽は、音程は完璧に制御され、徹底的な美音、豊麗な歌い回しなど、パールマンならではのものでしょう。パールマンの使用楽器は黄金期に製作されたと云う1714年製ストラディヴァリウスのソイル。倍音タップリ乗った音質は微塵も色褪せてはいません。パールマンがアシュケナージと組んでベートーヴェンの「ヴァイオリン・ソナタ第9番」と「第2番」を録音したのは、1973年の10月である。次いで、彼らは1974年の5月と6月に「第5番」と「第4番」を録音している。そして翌1975年の8月と11月に残り6曲を録音し終え、「ベートーヴェン/ヴァイオリン・ソナタ全集」を完成したのだった。パールマンもアシュケナージも、ともに熟達した技巧の持ち主だが、彼らはそうした卓越した技巧を縦横に駆使しながら、極めて充実した見事な演奏を行っている。特に《クロイツェル》は、あたかも火花が飛び散るかのような気概のこもった熱っぽい秀演だ。このとき28歳のパールマンの力強く徹底的な美音を36歳のアシュケナージはしっかり受け止めた、万全なテクニックではあるけれど「技量」を意識させず勿論奇矯にも走らない進取溢れる絶妙な演奏であり、組み合わせの魅力と相俟って、いつまでも光を失わない不滅の名レコードだ。
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